新型コロナウィルス(COVID-19)と物流~不可抗力に関して

2020.04.18 弁護士吉田伸哉

2018年の台風・地震、2019年の台風に続き、2020年は新型コロナウィルス(COVID-19)の蔓延により全世界で様々な契約に重大な影響が生じ経済的にひっ迫している状況といえます。この3年間、運送契約などの物流法に限らず様々な契約において「不可抗力」に関する相談を受けており、最近はCovid19関係での相談が増えています。物流法以外の分野については様々な解説がなされていますが、運送契約、港湾運送、倉庫寄託、複合運送などについての記事は見当たりませんのでしたので、この機会に整理することにしました。

1 コロナウィルス感染による契約の履行不能や遅延は原則として不可抗力
 日本や中国などの法律を準拠法としている契約については、契約書に不可抗力という条項がなくても、当然に不可抗力という考え方が存在します。そのため、コロナ感染により事業を閉鎖しなければならなくなった場合など当事者の責めに帰すべき事由によるものとはいない事由によって、運送契約が不可能となったり、遅延したとしても、いわゆる不可抗力として責任を問うことはできません。
 つまり、契約書に記載がなくても不可抗力して責任を問われない、問えないのが原則です。

2 英米法では不可抗力は契約書への記載が必要
 他方で、英米法を契約の準拠法とする場合には、その契約に不可抗力(Force Majeure)の条項があるかどうかが極めて重要です。英米法の国では、日本とは異なり、契約書に記載がなくても不可抗力で責任を問えないという考え方がないためです。
 つまり、契約書に不可抗力と書いている場合にのみ不可抗力と認められますので、例えば、戦争、内乱などが不可抗力の事由として記載してあっても、疫病等の記載がなければ不可抗力にならないということです。準拠法の国によっては、バスケット条項などの包括的な規定(キャッチオール規定)があってもその前に記載されている具体的な事由に類似する事由と解釈される可能性もあります。なお、不可抗力に該当しない場合でも、責任を負わない場合がありうるとして別の論点での議論(Frustrationなど)はありうるところですが、メインの話題ではないのでここでは割愛します。

3 準拠法による取扱いの相違
 以上のように準拠法による取り扱いの相違は、輸出入の際の国際的な売買契約、請負契約等にあてはまりますが、同様に海上運送などの国際運送においてもあてはまります。国際海上運送は、船を借り切る用船契約の場合と陸上の宅配便などのように船で貨物を運んでもらう個品運送があり、個品運送は船荷証券(B/L)やwaybillなどを使用してコンテナにより運送されます。
 ここで、船会社の船荷証券・waybillの準拠法が日本・中国以外の場合も多いため注意が必要です。典型的には、船会社と荷主である日本企業を事実上仲介する運送会社が利用運送人としてハウスBL(船荷証券)を荷主企業へ発行し、利用運送人自ら実運送人である船会社に対しては荷主としてマスターBLの発行を受ける場合です。ハウスBLは日本法が準拠法(不可抗力の概念あり)、マスターBLは英国法などが準拠法となっている(BLには通常不可抗力条項はない)などのことも多いからです。

4 不可抗力では因果関係等が実務上はよく問題となる
 台風や高潮、地震なども不可抗力であり、この場合の法的な考え方は「物流と天災〜地震,台風,高潮,洪水等の自然災害による貨物の滅失・損傷と損害賠償責任〜」と同様です。
 しかし、この新型コロナウィルス(COVID-19)にせよ、地震や台風にせよ、それに「よって」契約の履行ができなくなった、あるいは、遅延したという関係が必要で、不可抗力を主張する側が立証することが必要となります。このため、実際の実務では、この関係(因果関係)がない、他に原因があったなどとして争われることが少なくありません。
 つまり、不可抗力ではなく、過失があったから責任を負って損害賠償せよという問題となって争われることが多いのが実情です。単に、運送スタッフの単価があがり通常の単価では確保できなかった場合などは不可抗力にあたらないことが多いでしょう。
 ただし、港湾運送、倉庫帰宅営業については、約款によって過失が免責されていますので、よほどのことがない限り責任追及は難しいのが実情です。陸上運送や国内の海上運送などで、個別契約書で過失が免責されている場合も同様です。なお、これらの運送人等が責任を負う場合でも、通常、貨物の価格が損害賠償額の上限となりますので注意が必要です。
 特に、このような争いとなる背景には、自社の貨物に保険がきかずに多大な損失を被った場合、取引先との契約上自社に責任追及がなされ保険などで填補できない場合などその企業にとって存続をかけた理由が存在することが多いように思われます。
 そのため、不可抗力にあたるからと言って、上記のような実務上の問題点を踏まえずに、冷たく突き放すような対応はかえって事態を悪化させることが多いのが実情です。また、不可抗力や事情変更についての証明責任は主張する側にある上、限定的に認められる傾向もありますので、「不可抗力が認められなかった場合に契約上どのような責任を負うか」も意識した上で対応することが重要です。
 このような緊急事態だからこそ、また、本来争いを好まない日本人だからこそ、新型コロナウィルスによる運送契約等の遅延については、誠実に協議して譲歩できる部分についてはお互いに譲歩して解決するのが一番良いように思います。

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