新しい船舶管理契約BIMCO SHIPMAN2024の重要ポイント

2024.10.08

2024年4月、BIMCOは、「SHIPMAN 2024」を公表しました。この逐条対訳については、海事法で著名な有泉・平塚法律事務所の唯野陽一郎弁護士が既に「海事法研究会誌」2024年8月号から連載を開始しておりますが、その他にSHIPMAN2024の日本語の記事は見当たりませんでしたので,この機会に紹介させていただきます。

BIMCOが発行するSHIPMANは外航における船舶管理契約で最もよく使用されている書式です。他方,外航における日本語版の契約書としては,日本海運集会所(JSE)作成の外航船舶管理契約2006年版があります(この契約とSHIPMAN2009の相違は当コラム(SHIPMAN2009とその特徴I及び特徴Ⅱをご覧下さい)。

SHIPMAN2024では実務において近時の条約・規則等についてRiders条項に記載されていた条項等が新たに取り入れられ、SHIPMAN2009の全28条から大幅に増えています。

今回のSHIPMAN2024の改訂箇所は非常に多岐に上りますが、主要ポイントを紹介させて頂きます。

1.PartⅠ

 PartⅠの最大の特徴は、真正保証の新設です。
 SHIPMAN2024では、パートIの末尾に、契約当事者が、BIMCOから適切に入手した書式を使用していることを保証する文言が追加されています。

2.PartⅡ 

1 EU ETS 条項(10条)

 2023年に導入されたETS SHIPMAN排出量取引制度許容量条項2023がSHIPMAN 2024に摂取された点が特徴です。
 特に10条(d)では、違反の場合に、相手方当事者に契約を解除する権利が認められています。

2 管理手数料(13条)

 SHIPMAN 2024では管理手数料の体系が更新されました。契約開始日からの年間管理料のみならず、所有者から管理者に船舶が引渡された時点からの年間管理料と、引渡前管理料に分けられました。

 引渡前管理料は、管理者が提供する引渡前業務をカバーし、年間管理料は、管理期間開始からの通常の管理料をカバーしてます。引渡前管理料は、何らかの理由で船舶の引渡しが行われなかった場合でも支払われるものとなっており、特に不可抗力的な事象をカバーする内容になっています。

3  支配権の変更(18条)

 支配権が変更された当事者に対して1ヶ月以上前に通告することで、当事者が契約を解除できるようになりました。この条項は主に制裁条項の実効化を図るものです。

4 責任(19条)

 大部分はSHIPMAN2009のままですが、不可抗力の範囲が拡大されるなどいくつかの修正がされています。

5 管理者情報システム(21条)と船舶情報 (22条)

 SHIPMAN2024では、管理者情報システムと船舶情報船に関する条項が新設されました。
21条は、管理者は船舶情報を含むデジタル・プラットフォームへのアクセスを所有者に提供しなければならないとされましたが、そのデジタル・プラットフォームは関連する知的財産権を含め、管理者に所有権があることが規定されています。22条は、すべての船舶情報は船主に所有権があり、船舶管理契約が終了した場合、船主の要求があれば、全ての船舶情報が管理者から船主に開示しなければならないことが規定されています

6 個人データ保護(26条)

 EUのGDPRを含むデータ保護規制を遵守することを当事者に義務づけています。

7 サイバーセキュリティ(27条)

 サイバーセキュリティ事故予防の観点から、BIMCOサイバーセキュリティ条項2019の改正版が取り込まれています。

8 制裁(28条)

 BIMCOのSanctions Clause for Time Charter Parties 2020を改訂の上、船舶管理契約にも適用できるよう修正された条項がSHIPMAN 2024に新設されました。この条項では、船主は自身や船舶が制裁対象者でないことを保証し、管理者は自身が制裁対象者でないことを保証すると共に、制裁対象者の下請業者に下請けにださないことが求められています。

 その上で、契約期間中にいずれかの当事者がその保証に違反した場場合、他方当事者は契約を解除できるほか損害を請求できるものとされています。

9 その他

 SHIPMAN2024では、汚職防止、権利放棄、守秘義務、BIMCO電子署名条項2021版などの条項が新設されました。

(文責:弁護士・海事補佐人・海事代理士吉田伸哉)

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