判決速報:建物建築が予定されていた借地契約につき借地借家法の適用を否定した大阪高裁判決

(控訴審:大阪高裁令和3年10月6日判決【上告却下・上告不受理により確定】、第一審:神戸地裁令和2年7月8日判決)

2022.07.20

 本件は、転借人が同意を得て、転借地の一部を相手方に転貸していたところ、相手方が更に一部を無断転貸していたことが判明したことから、相手方に対しては賃貸借契約終了に基づく明渡しを、相手方からの転借人に対しては所有権に基づく明渡請求の代位行使(正確には転借人による国の所有権に基づく妨害排除請求権の代位行使)により明け渡しを求めていた事案です。本件では、賃貸借契約の期間満了による終了といえるかが主な争点の1つとされ、本件の転貸借契約に借地借家法が適用されるのかについて問題となりました。この点はについて正面から判断した公刊の裁判例がなかったためです。私は賃貸人(転々賃貸人)側で、神戸地方裁判所(第一審)・大阪高等裁判所(控訴審)いずれも明け渡しに関して完全勝訴となっておりましたが、2022年7月19日、最高裁判所第三小法廷は相手方である転借人(転々々借人)の上告受理申立について上告不受理決定をし、大阪高裁の判断が確定しましたので皆様に紹介いたします。

1 事案の概要

本件は、国有地を国から市、市から会社に賃貸し、更に市の同意を得て相手方に転貸していたところ相手方が更に一部を無断転貸していたことが判明したことから、相手方に対しては賃貸借契約終了に基づく明渡しを、相手方からの転借人に対しては所有権に基づく明渡請求の代位行使(正確には転借人による国の所有権に基づく妨害排除請求権の代位行使)により明け渡しを求めていた事案です。相手方は、原告であるこちらの請求を争うため抗弁として、賃貸借契約の違反がないことを主張し、また貸借契約の期間満了については黙示の更新を主張していました。

本件の控訴審では、賃貸借契約の期間満了に関して借地借家法が適用されるのかについて問題となりました。

2 第一審:神戸地裁令和2年7月8日判決

 原審の神戸地方裁判所は、被告の借地契約違反を認めて、原告からの賃貸借の解除が有効であることを認定し、原告の本件土地の明け渡し請求について、全被告に対する請求を認容しました。そのため、賃貸借契約の期間満了という争点の判断をするまでもなく、原告の明け渡し請求が認められました。

 このうち代位行使については、不動産の賃借人は,当該不動産の不法占拠者に対して,賃借権を保全すべく,賃貸人たる所有者に代位して当該不動産の所有権に基づく妨害排除請求権を行使することができる(最判昭和29・9・24民集8・9・1658等参照)ところ,転借人も代位行使できる(最判昭和39・4・17民集18・4・529)とされていますので、従来とおりの判断でした。

 また、相手方から転借人に転貸された部分について、相手方と転借人の共同不法行為を認定したことも特徴的でした。

 なお被告は、最高裁に上告及び上告受理申し立てをした原告からの賃借人である相手方のほか、原告や市に無断で更に被告から転借した転借人2社の合計3社でした。

3 控訴審:大阪高裁令和3年10月6日判決

 控訴審の大阪高等裁判所は、第一審と同じ事実関係の下で賃貸借契約違反はないとしたため、次のように契約期間満了がメインの争点となりました。なお、判決前に、控訴人(被告)から転借していた他の被告とは和解が成立し、明渡が完了していました。

【借地借家法の適用について】

 まず、第一審が判断しなかった借地借家法の適用について、「借地借家法1条にいう「建物の所有を目的とする」とは,借地人の借地使用の主たる目的がその地上に建物を築造し,これを所有することになる場合を指し,借地人がその地上に建物を築造し,所有しようとする場合であっても,それが借地使用の主たる目的ではなく,その従たる目的にすぎないときは,上記に該当しないと解される(最高裁昭和42年(オ)第293号同42年12月5日第三小法廷判決・民集21巻10号2545頁参照)。」としました。

その上で、本件について、①本件土地は国有地であって神戸市が管理していること,②本件賃貸借契約においては,賃貸期間が平成23年9月1日から平成24年3月31日までとされていたこと,③その後3年ごとに更新が繰り返されたが,最終期限が平成30年3月31日までであったこと,④控訴人は,本件対象地で港湾業務・機能にかかる貨物車両及び荷役車両のタイヤ交換業務を行っていることなどの事実を踏まえて次のように判断しました。

「被控訴人が本件建物の建築を認めており,控訴人の業務において在庫タイヤの保管倉庫や事務所が必要であるとしても,使用期間を短期間に限定した上で転貸を許可され,その使用目的も貨物車輛及び荷役車輛のタイヤ交換業務というもので,しかも本件対象地に対する本件建物の床面積の上記割合であることなどからすれば,控訴人が本件対象地上に本件建物を築造して所有しているとしても,それは借地使用の主たる目的とはいえず,その従たる目的にすぎないというべきである」

 本件判決は、具体的事情を踏まえつつ、「建物の所有を目的とする」(借地借家法1条)について、上記最高裁42年12月5日第三小法廷判決・民集21巻10号2545頁を前提に、具体的事実関係を含めて「従たる目的に過ぎない」と認定して、控訴人(被告)の主張を退けました。

【黙示の更新について】

 また、控訴人が主張していた黙示の更新については、当方では書面が要求されている上、黙示の更新が認められる事実関係はない旨を主張していました。控訴審では「更新後の本件賃貸借契約の期限が平成30年3月31日までであったが,被控訴人は平成29年12月12日付けの通知書により本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をするとともに,平成30年3月末日をもって契約期間満了となり原状回復の上明け渡してもらう必要がある旨を通知し,これが同月13日に控訴人に到達したことや本件訴訟の経緯があるのである」ことを理由に「本件賃貸借契の更新に異議を述べたことは明らかであって,黙示の更新を認める余地はなく,本件賃貸借契約は平成30年3月31日をもって期間満了により終了した」と判示しています。

なお、賃貸借契約書は「乙は,契約期間満了後引続き当該物件を賃借しようと するときは,期間満了の 7 か月前までに書面をもって甲に 申請しなければならない。」と規定されていました。甲は当方賃貸人、乙は相手方賃借人です。

4 最高裁判所の判断

 原告(被控訴人)から直接賃借していた被告(控訴人)は、最高裁判所に①上告及び②上告受理申し立てをしました。

 上告については相手方は期限内に上告理由書を提出しなかったため、2022年1(令和4)年1月25日上告却下決定となりました。
 上告受理申立てについては、最高裁判所は、令和4年7月19日不受理決定をしたことから上記大阪高裁の判断は確定しました。

コメント

 地裁と高裁では、同じ事実関係を前提に、賃貸借契約違反があったかの評価が真逆になっているのが特徴的です。もっとも、このような事態も想定されることから、一審段階から念を入れて、期間満了を主張していたのであり、この関係で上記借地借家法の適用が問題となりました。

 もしきちんと主張していなければ控訴審で逆転敗訴となった可能性もありました(もっとも、高裁も結論は変わらなかったところ、控訴人が受け入れやすい期間満了に敢えて切り替えて万全を期したという側面も否定できないと考えています)。

 国と地方公共団体の港湾付近の賃貸借契約は本件と同様に短期間となっていることが多く、地方公共団体もそれを大前提にして、各企業に転貸しているのが実情です。そのため、もし本件が最高裁で差し戻しや破棄自判されれば、全国各地の行政におけるこの種の賃貸借契約に甚大な影響を与えることになったところです。地方公共団体の立場及び港湾関係企業の取り扱い実績の多い私としては、実務とおりの認定でよかったと思える判決でした。

(文責:弁護士・海事補佐人・海事代理士吉田伸哉)

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