海上運送におけるコンテナのデマレージとディテンションの実務上の問題 ~荷主企業(輸入者)の支払義務と港湾運送業者等の責任

2020.05.01 弁護士・海事補佐人吉田伸哉

  1. コンテナのデマレージ・ディテンションは高額の紛争となりやすい
    (1) コンテナのデマレージ(Demurrage)・ディテンション(Detention)は、国際運送特にコンテナによる海上運送において、コロナウィルスによる運送の遅延、地震、台風被害による物流の遅延、食材等輸入国のスト開けなどにより大量に輸入品が港湾に到着した場合など、いわゆる不可抗力事由に関して問題となることの多いテーマです。港湾荷役の人員不足と不可抗力事由の解消による貨物の輸入量の急増が原因となることが多いからです。このような場合には、デマレージの総額が多額に上り、継続的な輸入では1億円を超えることもよくあります。
    (2)デマレージ・ディテンションの問題は法律関係が複雑であり、また、港湾運送や船荷証券など弁護士が通常扱うことのないテーマであることなどから、弁護士でさえ理解が不足していることも多く、法律関係の整理が必要となることが非常に多いのが特徴です。
  2. コンテナのデマレージ・ディテンション(用語の整理)
    (1) フリータイム:コンテナ船による海上運送により、日本へコンテナに詰められ輸入された貨物は、荷揚げされ、港湾のコンテナヤード(CY:Container Yard)で保管されます。輸入者である荷主が、CYからコンテナをピックアップするまでに許された無料の保管期間、又は、CYからコンテナをピックアップ後コンテナを返却するまでの無料貸出期間です。
    (2) デマレージ(Demurrage):フリータイムを過ぎてもCYから貨物をピックアップしない場合に課される「超過保管料」です。
    (3) ディテンション(Detention):CYから貨物の入ったコンテナをピックアップ後、フリータイムを過ぎても空のコンテナを返却しない場合に課される「返却延滞料」です。
  3. 具体的な紛争の当事者
    現実には、デマレージの問題の多くは、コンテナターミナルから貨物の入ったコンテナをピックアップする港湾運送業者と輸入者である荷主企業との間で生じることが一般です。
    もっとも、実務上は、港湾運送業者と荷主企業の間に、倉庫業者や陸上運送会社などが取次を行っている場合も多くあります。この場合には、荷主企業との間の契約は倉庫業者や陸上運送会社です。そして、港湾運送業者がデマレージ・ディテンションを立替えて支払い、取次をした倉庫業者や運送会社が港湾運送業者に立替金を支払い、荷主企業に請求した際に紛争となることが多いです。
  4. しばしばなされる無意味な議論
    (1) 荷主に支払義務がないとの議論は無意味
    実務では、輸入者である荷主企業が、デマレージ等の支払義務がないと主張することが非常によくありますが、極めて例外的な場合でない限り、契約上、荷主企業も港湾運送業者も共に支払義務があります。
    (2) 立替払契約や事務管理の主張も無意味
    同様に、実務では双方弁護士がついても、荷主企業は立替契約がないと主張し、港湾運送業者は事務管理や黙示の契約等を主張することもしばしばありますが、(1)同様に無意味です。
  5. 準拠法と不可抗力
    (1) デマレージ・ディテンションの原因が台風・高潮・地震・新型コロナウィルスの緊急事態宣言解除による取り扱い貨物の急増等の場合など不可抗力事由に該当する場合があります。この場合、準拠法によってはデマレージ・ディテンションを支払わなくてよい可能性があります。なお、不可抗力かどうかで争いが生じることも少なくありませんので、新型コロナウィルス(COVID-19)と物流~不可抗力に関してをご参照ください。
    (2) 日本法・中国法が準拠法の場合
    契約条項に規定がなくても不可抗力という考え方が認められています。そうすると、デマレージ・ディテンションが不可抗力を原因として生じた場合には、港湾運送業者は不可抗力を主張して、デマレージ・ディテンションの支払いを拒むことができると考えられます。
    (3) 英米法が準拠法の場合
    それぞれの国の法律の精査が必要ですが、契約書に記載がない限り不可抗力による免責は認められません。デマレージ・ディテンションについては、不可抗力の記載がないのが通常ですので、不可抗力はデマレージ・ディテンションの支払いを拒める理由にはなりません。
  6. 損害拡大防止義務違反
    デマレージ・ディテンションの問題は、損害拡大防止義務違反が問題となりますが、多くの事案では弁護士でさえ見過ごしてしまっているのが通常です。しかし非常に重要なポイントです。
  7. 責任追及のまとめ
    (1) 港湾運送業者への責任追及は困難
    このことは5の場合も6の場合も同様です。
    (2) 港湾運送業者でない場合には責任追及が可能なことも多い
    このことは5の場合、6の場合で責任追及が可能であれば、これらの企業への責任追及ができる可能性が高いのが現在の実務です。
  8. 適切な弁護士選定のポイント
    一般にはなじみの薄いこの問題について精通している弁護士は、当初の相談時に、直ちに最低限、①船荷証券、②港湾運送約款を求めてきますので、そのことを知っておかれると不慣れな弁護士に依頼することを避けることができると考えます。

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