BARECON 2017〜Bareboat Charter Party(裸用船契約)の重要ポイント

2017.12.28 弁護士吉田伸哉

2017年12月13日,遂にBIMCOがBARECON 2017を公表しました。約16年ぶりの改正です。Googleで検索した限りでは,BARECON 2017に関する日本語の記事は未だ見当たりませんでしたので,この機会に紹介させていただきます。

ご存知の通り,BARECONは,Bareboat Charter Party(裸傭船契約)において,最もよく使用されている著名な書式です。現在の外航実務においては,BARECON 2001が最新版として普及しています。
改訂箇所は多岐に上りますが,主要なポイントを紹介させて頂きます。

  • 傭船期間・傭船料
    (1)  傭船期間
    実務上,Bareboat Charter Party(裸傭船契約)は,傭船者の選択で傭船期間延長オプションが設定されること多いことを受け,同オプションの設定が標準でできるようになりました(2条)。

    (2)  傭船料
    [1]  BARECON 2017では,傭船料支払い遅延は,合意がない場合には,傭船料の支払期限日における英国銀行協会(BBA)の「1ヶ月」のロンドンにおける銀行間取引金利(LIBOR)に「3%」上乗せした金利が適用されると改訂されました(15条)。BARECON 2001では,「3ヶ月」及び「2%」の上乗せでした。
    [2]  傭船料の支払から “time shall be of the essence” の文言が削除されました(15条)。

    (3)  傭船期間中の点検(14条)
    BARECON 2001では,傭船者は,船主の要求により,海難事故などの事故・損害についての完全な情報を提供と,航海日誌の点検を許可しなければならないと規定されていました。BARECON 2017では,これらに加え,船舶のClass Records,証明書,整備記録なども点検ができることとなりました。

    (4)  新たな船級・規制要求事項(13条)
    新たな船級上または強行法による船舶の運航の継続のために構造変更や新しい設備が必要となった場合の費用配分について,BARECON 2017では,①傭船者全額負担の場合と②傭船者・船主で配分する場合の選択式となった上で,後者については改修の期待耐用年数または船舶の期待耐用年数のいずれかを考慮して,配分を決する規定が新設されました。
  • 引渡・返船
    (1)  引渡時の堪航性についての絶対的義務など
    [1]  BARECON 2001では,堪航性については,相当の注意(due diligence)で足りるとされていましたが,新3条では絶対的義務とされています。
    [2]  また,引渡前に傭船者が検査をしていた場合,船舶は通常損耗を除き,検査時の状態で引き渡すものとされました。

    (2)  Familiarisation(熟知)規定の新設(6条)
    船舶の引渡し前には傭船者に,船舶の返船時には船主に,事前に最大2名のrepresentative(代表者)を自らのリスクと費用において搭乗させる権利を有する規定が新設されました(6条)。

    (3)  引渡し・返船時の検査(7条)
    BARECON 2001は,本船の引渡し・返船時に,船舶の状態を確認・合意するために検査官を指名すること,船主はon-hireサーベイの全費用を,傭船者はoff-hireサーベイの全費用を負担することと定めていました。
    BARECON 2017では,この規定に加え,傭船者に本船の引渡し時に,船主に返船時に,それぞれの時間と費用で,船級協会によって指名されたダイバーによるunderwater inspection(水線下部の検査)を行うことができるようになりました。
  • 保険・修繕・全損
    (1)  保険(17条)
    [1]  BARECON 2017では,船体・機関保険について,船主と傭船者を共同被保険者とする規定が設けられました。
    [2]  また,船体・機関保険,戦争保険について船主・傭船者のいずれの費用で付保するかは選択式となりました。

    (2)  修繕(18条)
    従来は,保険・修繕と同一条文に規定されており,同規定内に全損(Total Loss)も規定されていました(13条)が,BARECON 2017では,保険,修繕,全損(Total Loss)は別々に規定されるに至りました(17条〜19条)。

    (3)  全損
    [1]  “Total Loss” の定義が定義規定(1条)に新設されました。
    [2]  全損規定は,従来の保険・修繕条項から分離され独立の条項となりました。
    [3]  全損規定における最も重要な改正点は,「傭船契約者は,船舶が全損となった場合には,船主に対して責任を負う」(19条)との一文が付加された点です。
    これは,英国最高裁判所のCourt Gard Marine & Energy Limited v China National Chartering Co Lt d and another [2017] UKSC 35(The “Ocean Victory”,いわゆる「オーシャンビクトリー号事件」)判決を受けて新設されたものです。
  • Lien
    (1)  船主のLienに再傭船料・再運賃が含まれる点は従来通りですが,表現が少し変更されたほか,Dead Freight(不積運賃)やDemurrageも含まれることが明記されました(20条)。

    (2)  Lienの禁止(21条)
    注意書の添付の規定(16条)は削除されました(21条)。
  • Termination(契約終了)(31条)
    BARECON 2017ではより明確かつ平易に理解できるよう再構築されました。
    (1)  債務不履行による解除の場合,残傭船期間に対する損失も請求できることが明記されています。

    (2)  BARECON 2001に規定のあった傭船者不履行の場合の船主の “withdraw”(引揚げ)の条項が削除されました(28条(c))。

    (3)  本船の喪失した場合の契約の終了とみなされるとの規定について,”without prejudice” の文言が追加されました。

    (4)  一方当事者の破産等の場合の規定の表現が改められました。
  • その他
    (1)  定義規定(1条)
    “Banking Day”, “Crew”, “Flag State”, “Latent Defect”, “Total Loss” の定義が新設され,また,Vesselに,equipment, machinery, boilers, fixtures and fittingsが含まれることが明記されました。

    (2)  Performance Guarantee(履行補償状)(27条)
    BARECON 2001のBank Guarantee(銀行補償状)の規定(24条)は,BARECON 2017においては,現在の実務上頻繁に用いられているPerformance Guarantee(履行補償状)の規定に置き換えられました(27条)。

    (3)  通知条項(Notice)(34条)
    BARECON 2001の通知条項にはemailは含まれておらず,またいつこれらの通知が到達したのかの規定はありませんでした。
    BARECON 2017では,以前の私のコラムでも紹介したNYPE 2015と同様,①emailが明記され,②到達のみなし規定が新設されました。
    emailを含む通信(communication)はその当事者によって実際の受領(actual receipt)日になされたと見做されることとなりました。

    (4)  削除された規定
    [1]  戦争(26条)の条項が削除されました。
    [2]  Part1のBox1のShipbrokerが削除され,また,PartIIのbroker(仲介人)のCommission(手数料)の規定(27条)も削除されました。

    (5)  その他の新設規定上記以外で,BARECON 2017の新設規定としては,Anti-Corruption(28条),Sanction and Designated Entities(29条),Partial Validity(35条),Entire Agreement(36条),Headings(37条),Singular/Plural(38条)などがあります。

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