物流と天災〜地震,台風,高潮,洪水等の自然災害による貨物の滅失・損傷と損害賠償責任〜

2018.10.12

今年は集中豪雨・台風・地震などの自然災害が例年に比べ多いように思います。私自身も台風20号,21号のみならず大阪及び北海道の地震を身をもって体験しました。
台風21号で神戸・大阪の港は高潮による甚大な被害が広範囲で生じ,北海道地震では,皆様の日常生活は勿論,企業活動の面でも食品・日用品・各種材料・燃料などをはじめとする商品・貨物が多く滅失・損傷し,供給ラインが停止するなど多大な影響を受けているのが実情です。
物流(各種運送・港湾・倉庫)やこれらに関係する損害保険を多く取り扱っている弁護士として,保険会社,各種運送会社,港湾業者,倉庫業者,リース業者等から多くの相談を受けており,現在対応させていただいておりますが,無用なトラブルを回避すると共に,企業の思わぬ損失を回避するという観点からいくつか有益な情報を提供できればと考えております。

  • 自然災害は原則として不可抗力
    集中豪雨・台風・地震などの自然災害により,商品・貨物などが滅失・損傷した場合,一般に不可抗力と考えられています。
    ですから,商品・貨物の所有者は,商品・貨物の運送を依頼していた,あるいは保管していた運送会社・港湾業者・倉庫業者に責任があるとして損害賠償請求をすることは,原則としてできません。
  • 例外的に過失が認められる場合もある
    (1)  しかし常に不可抗力として責任を負わないというわけではなく,例外的に,運送業者・港湾業者・倉庫業者に過失が認められる場合があり,このような場合には,損害賠償請求ができる可能性もあります。なお,このような自然災害において過失があることを立証することは相当難しいことには留意が必要です。

    (2)  港湾運送・倉庫寄託の場合 〜台風による高潮により貨物保管中の損傷
    港湾業者・倉庫業者は,港湾運送約款・倉庫寄託約款で故意・重過失のみ責任を負うとして通常の過失は免責とされています。ですから,現実には,港湾業者・倉庫業者に通常の過失がある場合でも,これらの企業に損害賠償請求をすることはできません。
    港湾業者・倉庫業者に第三者に対する法的責任が認められた場合に備えて,賠償責任保険をかけていることが通常ですが,自然災害により貨物が損傷した場合には港湾業者・倉庫業者に法的責任がないとして保険金がおりないのが通常です。

    (3)  陸上運送・海上運送の場合
    陸上運送・海上運送の場合には,運送会社に過失が認められれば,損害賠償を請求できる余地があります。ただし,天災が多かれ少なかれ原因の1つになっている以上、責任追及に困難が伴う場合が多いのが実情です。
    陸上運送については,現在の商法では過失を免責することが認められていますが,標準約款では通常の過失の場合にも責任を負うとされているからです。他方,国内の海上運送の場合,現在の商法では国内の海上運送についてそもそも通常の過失を免責することは認められていません(ただし,海上輸送中の船員等の過失は免責することは認められています)。国際的な海上運送の場合には,国際海上物品運送法により,やはり運送会社の過失免責条項は無効とされています(ただし,船積前・荷揚後は特約が有効と考えられていますので,コンテナ輸送の場合にB/L約款等を確認することが必要です)。

    (4)  港湾運送・倉庫寄託・陸上運送・海上運送と責任限度額
    今年の台風による高潮,集中豪雨,地震による貨物の滅失・損傷の場合,港湾運送・倉庫寄託・陸上運送・海上運送共に不可抗力を強く主張してきます。また,これらの企業が付保している賠償責任の保険会社も同様の視点に立ちますので,実際上,不可抗力(Force Majeure)を崩すことは相当の困難を伴います。
    また,仮に,港湾運送・倉庫寄託・陸上運送・海上運送会社の責任が認められ,損害賠償請求が可能な場合でも,その金額は貨物の価額に限られます。
    なお,港湾運送・倉庫寄託・陸上運送・海上運送などはニッチな分野であり適切な弁護士に相談・対応を依頼しなければ解決の方向性を誤り,徒らに時間と費用がかさむ結果となることもありますので注意が必要です。当初に,上記約款内容及び個別契約の有無を一番に確認することが何よりも重要です。
  • 荷主の企業側のリスク回避
    上記のように,基本的には自然災害による貨物の損傷・滅失は不可抗力となり,運送会社・港湾業者・倉庫業者への損害賠償請求はごく例外的に,しかも貨物の価額を限度に認められるに過ぎません。

    (1)  物流特殊指定違反のリスク
    このような中で,港湾運送・倉庫寄託・陸上運送・海上運送会社等に,法的な根拠のない取引先への違約金や工場の不稼働損害を含む巨額の填補を強硬に求め,応じなければ今後の取引停止を行うなどのケースも実際は少なからず存在しますが,このような要求は,「物流特殊指定」の「不当な経済上の利益の提供要請」,「要求拒否に対する報復措置」に該当する可能性がありコンプライアンスの観点から非常に危険な行為といえます。経営陣・法務部が非常にしっかりしておりコンプライアンスなどの取組みをしている上場企業でさえ,現場担当者が,法務に確認することなくこのようなリスクの非常に高い行為を行っている危険性がありますので,荷主企業の法務部の方もこのような問題をよく認識いただくことが必要です。

    (2)  保険によるリスク回避
    荷主の企業側としては,貨物の損害のほとんどは自社に降りかかることを十分に意識し,保険によりリスクヘッジをしておくことは非常に重要です。例えば,貨物については貨物保険をかけておき,特に,輸出貨物には輸出FOB保険をかけておけば,神戸周辺で甚大な被害を引き起こした倉庫や港湾保管時の高潮による滅失・損傷もカバーすることができました。ただし,地震には対応していないので注意が必要です。
    なお,貨物以外の建物と内部の動産には火災保険,自動車については車両保険などを締結しておくことで自然災害のうち,一定の災害についてカバーできることがあります。
    いずれにしても,保険対応の場合には,天災の種類によっては保険の適用外となっていることが多々ありますので,保険会社の方に会社の要望と回避したい自然災害のリスクの内容をしっかりと伝えた上で,適切な保険・特約を付保してもらうことが重要です。

    (3)  契約上の対応
    自然災害時には運送会社による運送不能・遅延も生じますが,やはり責任を問うことは非常に困難ですので,取引先との契約条件で,自然災害時を想定して契約条件を設定しなおすことも重要です(国際取引のFOB条件を見直しも含みます)。

2020.04.20 追記
以上の多くは、コロナウィルスによる場合による契約の履行不能などの場合も当てはまります。コロナウィルスについては、新型コロナウィルス(COVID-19)と物流~不可抗力 に関してもご参照ください。

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