商法(運送・海商)改正の重要ポイント〜物品運送(陸上・海運・空運)を中心に

〜物品運送(陸上・海運・空運)を中心に

2018.05.18 弁護士吉田伸哉

本日(平成30年5月18日)、商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律案が、参議院でも可決され成立しました。「商法(運送・海商関係)等の改正」ともいわれ、約120年ぶりとなる商法の運送・海商法の分野の大改正となっており、運送法・海商法が現代化・統一化されました。この改正に伴って国際海上物品運送も整備されています。

今回改正された商法の運送・海商法は、法律的な観点からスポットライトがあたることが少ない分野ですが、実は企業活動や私達の日常生活に必要不可欠な重要なものですので、今回、物流という観点に重点を置きながら、主要な改正点と重要ポイントを紹介させていただきます。

  1. 運送契約の概要
    (1)  分類
    運送契約は、鉄鉱石、穀類等の原材料、原油・LNG等のエネルギー、商品・製品等の物品を運送する物品運送契約と、人(旅客)を運送する旅客運送契約に分類されます。物品運送契約は、企業の重要な経営戦略(物流)にも関わる重要な契約です。
    物品運送契約は、①国内運送と国際運送、②陸上運送(自動車、鉄道)、海上運送(船舶)、航空運送(航空機)に分類されます。なお、「複合運送」とはこれらの運送が組み合わされた運送をいいます。

    (2)  改正の概要と適用される法律・条約
    改正商法(新商法)では、用語が現代化されました。内容面では、物品運送・旅客運送契約の定義規定、航空運送・複合運送の規定も新設されました。また、従来相違のあった物品運送間の規律等が整備され統一化されました。この関係を簡潔に示すと次のようになります。
  1. 物品運送契約
    (2)  運送人の損害賠償責任
    [1]  高価品の特則の適用除外
    新商法において、運送人の損害賠償責任に関して重要な点は、高価品の特則の適用除外の規定が設けられた点です。従来の商法(現商法)でも、高価品の明告がない場合、運送人は免責されていましたが、今回、運送人の悪意(契約時)、故意・重過失により滅失・損傷・延着が生じた場合は除外される旨が明記されました。この規定は、国際海上物品運送にも適用されます。
    [2]  運送人の責任原則
    運送品の「受取」から「引渡し」までの間に生じた滅失・損傷(滅失・損傷の原因の発生も含む)・延着につき、運送人は損害賠償義務を負うこととなりました。また、滅失・損傷時の損害賠償額の定額化の規定は、従前の商法(現商法)同様、運送人の悪意・重過失の場合に適用されとされており、この点が、国際海上物品運送と若干異なります。なお,この規定は,単なる延着の場合には適用されません。

    (3)  運送人の損害賠償責任の消滅
    [1]  運送品の受取による責任の消滅
    運送品の損傷・一部滅失の運送人の責任は、荷受人が異議をとどめずに運送品を受け取ったときは消滅すると改正されました。但し、直ちに発見することができない損傷・一部滅失は荷受人が引渡日から2週間以内に運送人に対して通知を発すれば足りる点、及び、運送人が悪意の場合には適用がない点は従前通りであり変更はありません。
    他方、国際海上物品運送の場合は、3日であり、かつ、責任の消滅の効果はないとされている点が大きく異なっています。
    なお、国際航空運送に関するモントリオール条約は14日とされています。
    [2]  責任消滅の性質
    従来の商法(現商法)では、運送品の滅失等の運送人の責任は、1年の消滅時効にかかるとされていました。新商法では、国際海上運送と同様、1年の除斥期間に改められた点は重要です。これに伴い、運送品の滅失等による損害発生後に限り、合意延長が可能となりました。
    なお、国際航空運送におけるモントリオール条約の出訴期間は2年となっています。

    (4)  不法行為責任との関係
    ①損害賠償額の定額化、②高価品の特則、③運送人の損害賠償責任の消滅の規定は、運送品の滅失等における運送人の荷送人・荷受人に対する不法行為責任について準用され、運送人の責任が減免される限度で、運送人の被用者の責任も減免されることになりました(新設)。この点は実務上特に重要ですが、中でも、③運送人の損害賠償責任の消滅については十分な注意が必要です。なお、国際海上物品運送にも同種の規定があります。

    (5)  その他運送人の留置権の被担保債権から前貸金が削除され、付随費用(保管料等)が追加されました。運送契約の当事者ではない荷受人は、運送品の全部滅失時も荷送人と同一の権利を取得すること、及び、荷受人が運送品の引渡しまたは損害賠償請求をしたときは、荷送人はその権利を行使することができないこと、も明記されました。
  1. 旅客運送
    次の整備に伴い、旧商法(現商法)の海上旅客運送の規定は削除され、国内の、陸上・海上・航空旅客運送が統一されました。なお、準拠法が日本法の場合、国際海上旅客運送にも適用されます。
    (1)  運送人の責任
    人命尊重・消費者保護の観点から、運送の遅延を原因としない旅客の生命・身体の侵害について、運送人の損害賠償責任を減免する特約は無効とされました(片面的強行規定、新設)。但し、①大規模災害の運送、② 通常の運送でも生命・身体に重大な危険が及ぶおそれがある者の運送は除かれます。
    (2)  旅客の携帯手荷物に関する運送人の責任運送人は、旅客から引渡しを受けていない手荷物(身の回り品を含む)の滅失・損傷につき、故意・過失の場合を除き、責任を負わないとされ、身の回り品を含むことが明記されました。また、運送人の責任に、損害賠償額の定額化、運送人の損害賠償責任の消滅、不法行為責任との関係(高価品に関する部分を除く)の規定が準用された(新設)点も特徴です。
  2. 海商法
    海商法部分は業界関係者以外にはなじみの薄い部分でしょう。しかし、海上運送は、国内運送で約40%(トンキロベース)、国際運送で約99%(重量ベース)を占めるとも言われており、今回の商法改正のうち、海商法部分の改正も重要です。
    (1)  海上物品運送契約
    海上物品運送契約は、個々の貨物を運送する個品運送契約と船舶を契約の目的として貨物を運送する傭船契約に分類できます。前者の個品運送契約では、国際取引において船荷証券等が使用されることも多いです。後者の傭船契約に関しては、実務上,裸傭船契約、定期傭船契約、航海傭船契約に大別できます(もっとも、新商法では、厳密には、裸傭船契約及び定期傭船契約は船舶の利用に関する契約とされました)。裸傭船契約は、船舶の賃貸借ですが、傭船者に修理義務がある点が特徴とされており、今回この点が明記されました。定期傭船契約は、古来より国内外で頻繁に用いられている重要な契約であり、規定が新設されたことは特筆すべき点でしょう。航海傭船契約は運送契約であり、従前から規定がありましたが、現在の実務等に即して整備されました。

    (2)  海上物品運送に関する特則
    [1]  航海傭船、個品運送
    堪航能力担保義務・免責特約の禁止の改正は特に重要でしょう。従来の商法(現商法)では、堪航能力担保義務違反は無過失責任とされていましたが、国際海上運送と同様の過失責任に改められた点は重要です。航海傭船の同義務は任意規定となりましたが、運送人・船荷証券所持人間では強行規定であり、個品運送の同義務は強行規定です。
    [2]  船荷証券・海上運送状
    船荷証券は、国内と国際海上運送とで規律が異なっていましたが、現在国内ではほとんど使用されていませんでした。今回の商法改正では、国際海上運送に合わせて整備され、船積船荷証券と受取船荷証券の区分なども明記されました。「船荷証券の危機」に対応すべく実務で用いられている海上運送状(非有価証券)の規定も新設され、電磁的方法での提供も可能となり近代化も図られました。

    (3)  船舶衝突
    [1]  船舶所有者間の責任分担
    船舶衝突が起きた場合、いずれの船舶についてもその船舶所有者又は船員に過失があるときは、裁判所は,これらの過失の軽重を考慮して、損害賠償の責任及び額を定めるとされ、過失の軽重が不明の場合、責任及び額は、各船舶所有者が等しい割合で負担すると改正されました。
    [2]  消滅時効・適用範囲
    船舶衝突により生じた債権は、衝突条約の2年と異なり、1年の時効とされ、被害者が損害及び加害者を知った時から進行するとされていました(判例)が、船舶衝突(準衝突等を含む)が原因の不法行為(財産権の侵害に限る)は,不法行為時から2年の消滅時効と改正されました。なお、人身損害は、民法の適用があります。
  3. 共同海損・海難救助
    共同海損は、実務上、1994ヨーク・アントワープ規則に従った処理がされることが多いことから、今回の商法改正では、これに整合するよう成立、分担等の規定が整備されました。
    海難救助は、1910年海難救助条約(日本も批准)が適用される場合のほか、実務上利用される契約書は,環境保護等の観点を加えた1989年救助条約(日本は未批准)に則っており、これらに沿って2年の消滅時効(作業終了時から起算)等が改正されました。
  4. 海上保険
    海上保険については、英国法を中心とした長年の判例と実務の蓄積により国際的な標準が確立されていることなどから、従来の規定は存置されることになりましたが、告知義務の内容が自発的申告義務に改められ、委付等は削除されるなど、実務に即した改正がなされています。
  5. 船舶先取特権
    順位が変更されており重要な改正ポイントの一つです。
    新商法の検討過程において、船舶抵当権が一部優先するとの改正案もありましたが結果的には見送られました。また、船舶先取特権の目的から未収運送賃が削除され、人身損害等が付加され、同先取特権の債権の範囲・順位が変更されました。

    順位新商法1船舶運航に直接関連して生じた人身侵害の損害賠償請求権2救助料に係る債権,船舶負担に属する共同海損の分担に基づく債権3航海に関し船舶に課された諸税、水先料・引船料に係る債4航海継続に必要な費用に係る債権5雇用契約により生じた船長その他の船員の債権6船主責任制限法の物損に関する債権
  1. 所感
    今回の商法改正は基本的には実務に沿った改正ですので、その意味で実務に及ぼす影響は大きいとはいえないとの評価もあるところです。しかし、各種運送・港湾・倉庫寄託などに携わっている弁護士としては、規定が整備・統一化されるだけでなく、従来からの重要な問題点もある程度解消された結果、無用な紛争防止にも相当程度寄与するものと考えており大変評価できると考えています。運送・倉庫寄託などの物流法の実務では各種約款が契約内容として非常に重要ですが、これらの標準約款についても上記改正を踏まえた見直し・整備した新しいものが公表されるでしょう。

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