値引販売により損害賠償を請求された事案
2025年3月9日
損害賠償請求の被告側でセカンドオピニオンとして関与し全面勝訴に至った案件(神戸地裁令和6年3月25日判決・確定)をご紹介します。
1 事案の概要
本件訴訟は、①契約時の減額、②永代使用料・管理費等の返還などが法人に与えた損害であるとして遅延損害金を合わせて7000万円を越える請求がされた事案でした。役員の方には、当初弁護士がついておりましたが、不当裁判であることを強く主張してくれないとして解任したばかりであり、ご相談時点で、証人尋問前の段階にあり、訴訟記録は膨大な量となっていました。
私は膨大な記録を全て読んだ上で、不当裁判であること自体を強く主張しても意味がないこと、その弁護士は膨大な時間をかけて丁寧に対応してくれており平均的な弁護士以上であること、しかし、重要な主張が一部足りていない部分もあることからこのままでは敗訴の可能性があることを説明しました。詳細な反論がなされていたのですが、裁判では裁判官の判断により損害の有無・範囲が変わりうる状況でした。
2 損害賠償の範囲とセカンドオピニオン
本件訴訟は、主な争点は、値引販売の値引分が法人に損害を与えるか(不法行為を構成するか)が主に問題となりました。訴訟ではそれが常識的に許容される範囲内かどうかが争われていましたが、墓地の権利ということもあり、裁判所によっては判断が異なりうる状況でした。役員の方は、費用の問題もあり結局懇意にしている別の弁護士に依頼されました。
私は、役員の了解の下で、新しい弁護士に主張が足りていない4点とそのポイントを伝え、その後は、損害がないことを立証するための一覧表の作成に陰からバックアップすることになりました。
私の追加主張の要は、①永代使用料・管理費等の未経過分の返還も、②新たな販売時の割引も、代表者の了解を得ていたものの既に死亡していることから一義的に勝訴できるとは限らないとして、①②により、損失どころかかえって法人の収益が大きく増えたことを一覧表にして明確に立証することでした。
裁判官が、損害の有無・範囲が一目でわかるように、表の項目・構成も私が作成し、役員の方が1つ1つ埋めていった結果、個々の販売あたり、いくらの収益が増えたか一目瞭然となりました。つまり、損害ではなくかえって大きな利益になったという一覧表が完成しました。新しく受任した弁護士も訴訟の最終段階でもあったこともあり非常に喜んでいたと報告を受けました。
新しい弁護士の手腕、当初の弁護士の頑張りもあってではありますが、第一審の判決は、原告において損害の立証がされていないとして全請求を棄却、つまり役員の方の全面勝訴(完全勝訴)となりました。原告は、控訴することなく無事、役員の方の完全勝訴で確定して終了しました。
3 コメント
訴訟では双方弁護士がついている場合でも、相手方が争点とは直接関係ないことを主張しそれに反論することでどんどん本論から外れていったり、法律上の争点の理解が原告と被告で微妙に異なり、主張がかみ合わない場合も少なくはありません。
非常に多くの裁判経験から指摘すれば、相手方の主張に対してどう反論するかという点よりも、裁判官が何を考えどのように判断するかに重点をおき、その裁判官の思考に合わせた受け入れやすい立証が重要となります。
そのような観点から、建築関係訴訟では昔から、交通事故訴訟では最近から裁判所でも取り入れられている損害等の一覧表を事案に応じて作成し、一覧性の高いものにすることは、争点整理に資するだけでなくクライアントの最大利益を図る上でも重要と考えます。
また、本件のように負けられない案件、自身にとって多額の案件ほど、セカンドオピニオンを取得することは重要です。セカンドオピニオンでは、客観的な視点から主張・立証が足りていない部分や突破口が見つかることもあるからです。実際、各上場企業の重要案件の多くで行われています。
(文責:弁護士・海事補佐人・海事代理士吉田伸哉)