船舶管理契約におけるSHIPMAN2009とその特徴II

〜SHIPMAN1998およびJSEの外航船舶管理契約との相違を踏まえながら

2016.04.21 弁護士吉田伸哉

前回に引き続き,BIMCOが発行のSHIPMAN2009の特徴についてSHIPMAN1998および日本海運集会所作成の外航船舶管理契約2006年版と比較しつつ,その特徴や留意点を紹介させていただきます。

前回のコラムでは契約の基本事項および業務について触れましたので,今回は,義務,管理者の責任およびその他について触れたいと思います。

  • 義務
    (1)  管理者の義務
    [1] SHIPMAN2009においては,管理者の義務として,健全な船舶管理の実務慣習に従い,船主のために船主の代理人として船舶管理を行うこと,および,管理業務の提供に関するすべての点につき,船主の利益を擁護し,増大させるために自己の最善の努力を尽くすこと,が要求されていますが,SHIPAMAN1998からの変更はありません。
    また,技術管理を行う場合については,旗国の要求を満たすことを確実にしなければならない点,および,ISM コードおよび ISPS コードが適用されるときは,本船の運航上の責任を負うとともに,それらが課している義務と責任を引き受けなければならないとされており,ISPSコードが付加された以外は,SHIPMAN1998と同様です。
    [2]   外航船舶管理契約は,管理者の義務についての独立した規定はありませんが,特にSHIPMANと異なるものではないと思料されます。

    (2)  船主の義務
    [1]   SHIPMAN2009では,船主の未払金の損害金(Box13記載の利率)の支払義務が明記されました。技術管理を行っている場合,および行っていない場合の双方における船主の義務が,詳細に規定されるに至りました。
    [2]   外航船舶管理契約については,船主の義務についての独自の規定はありませんが,技術管理等各規定においてSHIPMAN1998と同内容が規定されています。なお,日本法が準拠法の場合,合意がなければ年6%の遅延損害金となります。
  • 管理者の船主に対する責任
    (1)  管理者の責任について,SHIPMAN2009では,管理者は,一切の損失,損傷,遅延または費用について,船主に対して一切の責任を負わないのが原則です。管理者の過失,重過失または故意のみから損害が生じたことが立証された場合には,船主に対して責任を負いますが,各出来事または一連の出来事における管理者の責任は,(管理者等が,故意または無謀に,かつ損害の発生可能性を認識して行なった場合を除き)本契約の下で支払われる年間管理料の10倍を超えないとされています。また,管理者は,乗組員の行為については責任を負わないとされていますが,管理者に,乗組員の選任,配乗など乗組員管理業務の義務の懈怠があった場合には賠償義務を負います。この場合にも上述の上限額の制限があります。これらの点については,SHIPMAN1998からの変更はありません。
    なお,SHIPMAN2009では,乗組員管理における,乗組員の交代について,船主は,合理的な理由に基づき職務に不適当と考えられる乗組員を,次の適当な機会に自己の費用で交代させることを求めることができるとされ,管理者が適当な有資格の乗組員を提供する義務を怠ったときは,この交代は管理者の費用で行われるとする規定が新設されました。

    (2)  外航船舶管理契約における管理者の船主に対する責任については,基本的にはSHIPMANと同様ですが,年間管理料の10倍または「過去に本船に関して支払った管理手数料の総額」との「いずれか低い額を超えることはない」とされている点が特徴的です。

    (3)  管理者の責任が争われた近時の裁判例
    船舶管理契約の書式は明らかでないものの船舶管理会社の安全管理システムの構築に係る過失,すなわち船舶管理者の責任が問題となった日本の裁判例として東京地裁平成25年6月20日判決(オーシャン・ビクトリー号事件,判例タイムズ1418号305頁)があります。裁判所は,「ISMコードに規定する航行の安全を確保するための安全管理システムを構築し,安全運航に関する基本事項のほか,緊急事態への対応等,船員が遵守・実施すべき事項に関する手順等を詳細に定めた安全管理マニュアルを作成して財団法人日本海事協会から適合証書及び本船の安全管理証書を取得し,船内に同安全管理証書及び適合証書写し並びに安全管理マニュアルを備え置き,安全運航等について船員への周知を図っており,本船の船橋には操船指揮を行う船長,船位確認,機関操作を担当する航海士,操舵を担当する甲板手が配置されていた。」として船舶管理会社の過失を否定しました。
  • その他
    (1)  準拠法と仲裁について,SHIPMAN2009はSHIPMAN1998と同様,英国法準拠法でLMAAの仲裁,米国法準拠法でニューヨークにおける仲裁および当事者間の合意に基づく準拠法及び仲裁地を規定し,契約当事者の選択に委ねています。もっともSHIPMAN2009では,調停(mediation)についての規定が新設されました。他方,外航船舶管理契約においてはTOMAC仲裁が規定されていますが準拠法の定めはなく,調停に関する規定もありません。
    (2)  法律および規則の遵守については,SHIPMAN2009は従前同様です。外航船舶管理契約については同様の規定はありませんが,SHIPMAN1998,2009にはない守秘義務の規定がおかれています。
    (3)  通知については,SHIPMAN2009では通知の方法としてメールなどの電子媒体が明記され,また,それぞれの通知の方法がいつ受領されたとみなされるかの規定が新設されました。この点はSHIPMAN1998および外航船舶管理契約にはない点であり,電子媒体による連絡が頻繁になされている実務において,電子媒体による通知の有効性に関わる重要な改正点といえます。
  • まとめ
    以上SHIPMAN2009の主な特徴をSHIPMAN1998や日本海運集会所の外航船舶管理契約と対比しつつ見てきました。全体的には,SHIPMAN2009ではより詳細な規定が設けられ一層紛争予防に資する内容となり,また,当事者の合意に柔軟に対応した書式になったといえます。反面,船主または管理会社にとっては,SHIPMAN1998の方が有利な規定もありますので,相違点を踏まえつつドラフティングの段階で適宜修正等を行うことが最も重要です。
    外航船舶管理契約についてもSHIPMAN2009,1998との相違点を踏まえて,同様に適宜修正等を行うことで,リスクを最小限に抑えることができると考えます。なお,本稿は外航における船舶管理についてのものですが,内航における船舶管理にも有用です。日本海運集会所の内航船舶管理契約は,外航船舶管理契約よりもやや簡易化されていますが,上記同様の視点から,内航の契約書に取り込むことができる有用な条項も多いことからこれらの点を上手く活用することが,無用の紛争防止とリスク回避のポイントです。

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